BRUCE JOHNSTON / Disney Girls (1957)

Going Public

Going Public

ポップス・ファンにとって「隠れた名曲」の代名詞ともいえるのがこの「ディズニー・ガールズ」を挙げる人は結構いるような気がします。この曲、「隠れた名曲」の要素をすべて満たしています。

①地味だけど滋味
②シングルカットはなし
③普段あまり表に出ないが実力のある人の作品
④それなのに多くの人がカバーしている

ね、ピタリでしょう? この曲のオリジナルは、ブルース・ジョンストンがビーチ・ボーイズとして71年に発表されたアルバム「サーフズ・アップ」の1曲として収録されたのが最初。正直言えば、作者ヴァージョンよりもビーチ・ボーイズ・ヴァージョンのほうが出来がいい。当時のビーチ・ボーイズのマネジャー(ジャック・ライリー)が社会派路線を敷いていて、それに批判的だったブルースが対抗策として出したのがこの曲といわれるほど、有無を言わさぬ名曲で、歌詞は古き良きアメリカを思い出させるドリーミーなもの。寡作家ですが、ブライアン・ウィルソンに次ぐソングライター&アレンジャーだった彼の意地がみえる。

サーフズ・アップ

サーフズ・アップ

さて、この曲のカバーといえばアート・ガーファンクルがアルバム「ブレイク・アウェイ」でカバー。もともとブルースも「あまーい」声のタイプなので、このカバーははまりすぎ。
今回ご紹介したアルバムは3枚とも大傑作(地味・滋味)なので、もし中古で発見したときはぜひだまされたと思って買ってください。損はさせません。
それにしてもですよ、あの版権にはうるさいディズニーがよくタイトルに使わせたなぁと。名曲だったので良しとしたのでしょうか?

NEIL YOUNG / The Needle And The Damage Done

Harvest

Harvest

アーティストとしての生き様として、非常に興味深い人というのが何人かいます。ニール・ヤングもその一人。バッファロー・スプリングフィールドからソロへ、そしてCSN&Yまで、さらにクレイジー・ホースを率いてグランジの元祖という長いキャリアは、様々な切り口で語ることができますが、一般にはやはりアルバム「ハーヴェスト」、シングル「孤独の旅路」が大ヒットしたシンガーソングライター然とした72年の時期の人気が高いようです。
かくいう私もこのアルバムからニール・ヤングを聴き始めたわけですが、当初の感想はキャロル・キングの「つづれおり」同様、地味だなぁとしか感じませんでした。しかし「つづれおり」がそうであったように、アレンジが地味でも元の曲自体がしっかりしているので、つい聴きたくなるんですね。
そこでDVD「ライヴ・エイド」に話が飛びますが、ライヴ・エイドではニールがこの「ダメージ・ダン」を演奏していました。それが実にいい感じなんですね。ところがそのときには「ハーヴェスト」を持っていたのに、この曲が収録されていたことを知らなかった(いかにいい加減に聴いていたかがバレる)のです。それでふと気づいてこちらのオリジナル・ヴァージョンを聴いてみると、なんとこの曲、ライヴ・ヴァージョンだったんですね。よって13年後のライヴ・エイドのときとほとんど変わらないパフォーマンスであったことにも感動しました。
この曲はタイトルからもわかるように、ドラッグをテーマにしたものですが、曲展開が非常にドラマティックにできていて、たぶんこの人以外には書けないタイプの曲になっています。後のCSN&Yでの「ヘルプレス」と同じタイプ。
ところで、ニールという人は、基本的にはソングライター&ギタリストとして認知されています。ヴォーカルはかなりクセがあるだけに好き嫌いが分かれるためでしょうが、私は好きですねー。ルックスはアレですが。

BOZ SCAGGS / Hard Times

Down Two Then Left

Down Two Then Left

ボズ・スキャッグスを取り上げるのは2回目ですが、改めてハマってます。ボズといえばバラードのイメージなんでしょうが、私はバラードだけでなく、ミディアム・テンポの曲も好きで、以前紹介した「JoJo」、「Miss Sun」、「Lowdown」、「Hollywood」などもお気に入り。
とにかく大人のイメージなんですね。「ガキは聴くな」くらいの迫力もあります。
私がボズを初めて聴いたのは高校2年くらいの頃で、多聞に漏れず「ウィア・オール・アローン」でした。そこからベストを聴き、名盤「シルク・ディグリーズ」も聴きましたが、そこはまだケツの青い若造ですから、バラードばかりに耳を奪われてました。
ところがですよ。
社会人になると途端にそんな甘〜いバラードでお茶を濁すほど楽な世界ではないわけで、そこでだんだん大人のロックにハマるようになってきました。パンクやニューウェーヴのような「青さ」や「初期衝動」よりも、「人生の苦味」だとか「高くて超えられない壁」のようなAORを聴くようになったわけです。もちろん今でもどっちも聴くのですが、かつてはほとんど理解不能だったAOR(なにせドナルド・フェイゲンの「ナイトフライ」ですら駄作と思ってたくらいでした)がスーッと「わかる」ようになった。
・・・などと書くと、渋谷陽一あたりからクソミソに言われそうですが、事実そうでした。
で、今年のテーマソングのようになっていたのがこの「ハード・タイムス」。同じタイトルでもヒューマン・リーグの「ハード・タイムス」とは別世界(w。
この曲は「シルク・ディグリーズ」に続くアルバム「ダウン・トゥ・ゼン・レフト」に収録されたヒット曲ですが、地味といえば地味。でもこのジワーッと汗がにじみ出るようなアレンジとボズの「乾いた熱唱」がまさに「ハード・タイムス」なわけで、これが今年一年ビンビンに響いていたのですよ。
バックは当然TOTOのメンバー。何しろ故ジェフ・ポーカロのドラムの音の大きさとかっこよさにしびれまくります。控えめだけれど効果的なデヴィッド・ペイチのキーボード、そして文句なくかっこいいレイ・パーカーJr.のリズム・ギター(本当に過小評価されていると思います)。
さて、みなさんの今年の「テーマソング」は何でしたか? 私にとって今年がどんな年だったかは、この曲からご想像くださいませ。

THE JAM / Slow Down

In the City

In the City

正直言えば、ジャムというかスタイル・カウンシルというか、つまりポール・ウェラーはちょっと苦手なタイプ。ルックスはかっこいいと思うんですが、あの声があまり・・・。
決して上手いタイプではないし、まあ誰もそれを求めちゃいないんでしょうが、ヴォーカリストとしてもプレイヤーとしても、そしてソングライターとしてもなんだか中途半端な感じがする人、という印象があります。
モッズからモータウン、スタックスへ、さらにハウスまでと音楽的に転々とスタイルを変えつつも、器用さを感じさせない無骨さがこの人の魅力なんでしょうが、やっぱりよく分からない人です。ただ、ジャムについてはパンクだと思ったことはありません。だからこの時期のバンドとしては十分に鑑賞に堪え得る魅力は持っていると思います。
そういうわけで、むしろギミック抜きのストレート勝負であるジャムの1stが、私としては一番楽しめるというわけでしょう。で、この1stはカバーの選曲もヒネリがないし、もろザ・フー影響直下の音ではありますが、上記のような理由でゆえに聴きやすい。
「スロー・ダウン」はビートルズもカバーしたラリー・ウィリアムズの曲で、スピードは速い速い!この曲に関してはオリジナルやビートルズよりもジャムのヴァージョンがベストだと思います。
他にも「バッドマンのテーマ」や「アート・スクール」など、初期衝動としかいいようのないこの時期のパフォーマンスやパッションこそ、今の若いバンドに欲しいテイストなんですが。

THE POLICE / Omegaman

Ghost in the Machine (Dig)

Ghost in the Machine (Dig)

ポリスを取り上げるのは久しぶりですが、昨日は「ポリス・ボックス」をぶっ通しで聴いてたんです。
Message in a Box

Message in a Box

で、やはり思ったのは、ポリスが最もバンドらしかった時代は「ゴースト・イン・ザ・マシーン」であると。
一般的な名作はやはり「シンクロニシティ」でしょうが、B面はスティングのソロと変わらないとしかいいようがないので、いかがなものかと。とはいうものの、「見つめていたい」はやはりポリスの演奏じゃないとどうしようもなく叙情に流れて(スティングのソロ・ヴァージョンなんぞ聴けたものじゃない)しまうし、「キング・オブ・ペイン」のタイトなリズムや、「アラウンド・ユア・フィンガー」での見事なコープランドの抑えた、でもロックなドラムはやはりポリスでしか生み出しえなかったとは思います。
ちょっとポリスにはまった人間が挙げるのはセカンド「白いレガッタ」。パンキッシュなレゲエ・スタイルという唯一無比な音は確かにこのアルバムが完成形ですし、何しろ「孤独のメッセージ」と「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」の全英1位シングル連発には勢いを感じます。
でもね、クズ曲も多いんですよ、このアルバム。
サード「銭遣った揉んだった」はもっと曲ごとのレベル差が激しくなっているので(まだ1st「アウトランドス・ダムール」の方が曲の粒は揃っている)、個人的には論外。
以上をもって、私はやはり「ゴースト〜」がバンド・サウンドとしての頂点だと思っております。一般にはシンセ・バリバリの音が馴染まないようですが、結構過激なアレンジだと思うのです。加えて曲もいい。シングルになった「インヴィジブル・サン」「マジック」「マテリアル・ワールド」「シークレット・ジャーニー」はもちろん、ほかも手抜きなし。
私が好きなポリスの曲のタイプはスピード感と緊迫感のあるロックなので、「シンクロニシティⅡ」や「マテリアル・ワールド」などが好きなのです。それで今回紹介するのは「ゴースト〜」に入った隠れ高速ロック・ナンバー「オメガマン」。
ほとんどワン・アイデアで突っ走った痛快な曲。昨日聴いてマジでかっこいいなぁと再認識。
そう、やはりポリスは「ゴースト・イン・ザ・マシーン」ですよ。

THE BOOMTOWN RATS / Tonight

In the Long Grass

In the Long Grass

意外にも、ブームタウン・ラッツを取り上げたのは今回が初めて。彼らの場合、どうしても「哀愁のマンディ」と例のバンド・エイドのせいで、彼らの全貌が相当誤解されているフシがあるのですが、まあめいすんさんところのhttp://www.h3.dion.ne.jp/~bananarp/(日本における公式ファンサイト)をご覧アレ。

で、今回取り上げるのは、彼らのアルバム中最も売れなかったラスト・アルバムより。これもめいすんさんとこのサイトで知ったんですが、シングルは4枚カットしてたんですね。私はライヴ・エイドでも演奏した「ドラッグ・ミー・ダウン」含め2曲しか知りませんでしたが。

今回取り上げた「トゥナイト」も実はシングル・カット曲ながらノン・ヒット。うまくレゲエのリズムを使いながら、ドラマチックなポップに仕上げているんですが、なんで売れなかったのかよくわからん1曲。そもそもブームタウン・ラッツはあのボブ・ゲルドフの悪声とビッグ・マウスぶり、デビュー時期もあいまってパンク〜初期ニュー・ウェーヴの文脈で語られることが多いんですが、バンド・エイド同様、単なる(でも非常に優秀な)ポップ・メイカーなのです。

これ以前のヒット・シングル&アルバムもそうですが、一貫して明るさがある(この辺が同じアイリッシュでもU2と違う)ところが好き嫌いの分かれ目なのかも。
こちらもご参照ください。→http://d.hatena.ne.jp/spandauballet/20050722

BEN FOLDS FIVE / Where's Summer B?

ベン・フォールズ・ファイヴ

ベン・フォールズ・ファイヴ

ベン・フォールズ・ファイヴの登場は、結構新鮮でした。まだグランジオルタナの残骸が残る時期に、先祖帰りというかわかりやすくてクールな音楽だなと思ったものです。ギターレス・トリオというのも珍しかったですし、何よりキャッチ・フレーズが「ビリー・ジョエルジョー・ジャクソン+パンク」みたいなことを言ってたのに惹かれました。

ビリーというよりは確かにジョー・ジャクソンに近い感触を持ったのは、ジョーもポスト・パンク世代だからでしょうか。とにかくベン・フォールズは一時期はまりました。

最初に買ったのはセカンドで、後に1stを買って一番気に入ったのがこの「ホエアズ・サマー・B」。何がいいってそりゃもうサビです。サビのコーラスです。一番私の心にくるタイプ、しかもピアノがリズムを刻むタイプがこれまた好きなんですよ。だから同じ「ピアノ・マン」系でもビリーやエルトンよりギルバート・オサリバン(彼のピアノは極めてリズム的)の方が好きなんです。

タイトルもそうですし、曲調もアレなんで、去り行く夏を偲ぶには最適な曲かと。ベン・フォールズはわずかオリジナル・アルバム3枚で解散しますが、一切ハズレなし。ソロもまた良し。90年代の音楽で珍しくもリアルタイムで体験したバンドだけに思い入れもありありです。

思えばブリット・ポップや以前紹介したジェリーフィッシュも含めて、90年代にパワーポップ復権したのは彼らの功績も大。日本でよく売れたのもむべなるかなです。

ちなみに1stは東芝EMIからでしたが、セカンド以降はソニーへ。ちょっとうれしい(謎。