JOHN COUGAR MELLENCAMP / Rain On The Scarecrow

Scarecrow (Rpkg)

Scarecrow (Rpkg)

アメリカではこのジョン・クーガー・メレンキャンプだとかトム・ぺティ、ボブ・シーガーのように、シンプルであまり洗練されていないロッカーは根強い人気を持っていますね。私のようなヒネクレ系ポップが好きなブリティッシュ派からすると不思議でもあるのですが、この手の音楽はシンプルゆえに曲が良くないとほとんど演歌のように様式化してしまうので、やはり人気を保っている人たちというのは、良いソングライターでもあります。
メレンキャンプは85年当時すでに「ジャック・アンド・ダイアン」「青春の傷あと」「ピンク・ハウス」と大ヒットを飛ばしていたビッグ・ネームでしたが、日本の音楽マスコミではスプリングスティーンブライアン・アダムスらと比較してもほとんど無視されていた状態だったように記憶しています。で、リアルタイムでは「ロンリー・オル・ナイト」「ロック・イン・ザ・USA」「スモールタウン」といったシングルがことごとく大ヒット。あまり好きなタイプの音楽性ではありませんが、確かにキャッチーで聴きやすい。
さて今回紹介するのは、その大ヒット中に出た4枚目のシングルカットで、タイトル曲の「スケアクロウ」。前3曲と比べると明るさは消え、アメリカの農家の厳しい状況を描いた歌詞(かなり衝撃的な内容)に合わせたかのようなハードでマイナーな曲調は、非常にインパクトがありました。ところが面白いことにこのシングルはあまり注目されることがありませんでした。この曲は本当に名曲です。イントロのかっこ良さは80年代のアメリカン・ロック・ナンバーの中でも指折りではないでしょうか。

HONEYDRIPPERS / Young Boy Blues

Honeydrippers 1

Honeydrippers 1

84年に突如登場したスーパー・プロジェクト、ハニードリッパーズ。メンバーは元ツェッペリンロバート・プラントジミー・ペイジに、ジェフ・ベック、元シックの当時超売れっ子プロデューサーだったナイル・ロジャース
バンド名がいやらしいことこの上ない(知りたい人は調べましょう)のですが、これはプラントがツェッペリン解散後に結成した最初のバンド名(活動なし)だそうで。
で、84年になっていきなりシングル「シー・オブ・ラヴ」が大ヒット。このオリジナルは1959年のフィル・フィリップス&ザ・トワイライターズというグループの曲だそうです。ノスタルジックなバラードは少なからず当時のプラントのイメージを覆すものでした。

アルバム「ヴォリューム・ワン」も大ヒット。5曲入りのミニアルバムだったのは残念ですし、タイトルからして続編が期待されましたがいまだに続編は出ず。収録された5曲は「シー・オブ・ラブ」同様オールディーズですが、どちらかといえば隠れた名曲的な選曲で、プレスリーでも有名なレイ・チャールズの「アイ・ガット・ア・ウーマン」くらいが知られている曲じゃないかなと思います。
今回取り上げたのは、当時アナログではB面の1曲目だった「ヤング・ボーイ・ブルース」。オリジナルは不明ながら、クレジットを見るとSpectorの文字があるので、フィル・スペクター関連のアーティストでしょう。スペクターらしい、そして「シー・オブ・ラヴ」系のゆったりとしたバラード。後にベン・E・キングが1960年にカバーし、彼の代表曲になっているようです。
単純にいい曲で、「シー・オブ・ラヴ」よりもプラントのハイトーンが聴ける(当時PVがなかったら「シー・オブ・ラヴ」がプラントとは思えないかも)点でもこっちの曲も聴きどころかと。
それにしてもトラベリング・ウィルベリーズもそうでしたが、「ヴォリューム・ワン」というアルバムを作ると「ヴォリューム・トゥー」はなかなか出ないようです(ウィルベリーズは結局「ヴォリューム・スリー」が出た)。
 

RINGO STARR / Six O'clock

リンゴ

リンゴ

リンゴ・スターのソロでの大ヒット作は、ジョン、ポール、ジョージの3人がバラバラながら集結した奇跡の作品でした。ジョンの「アイム・ザ・グレイテスト」、ジョージの「サンシャイン・ライフ・フォー・ミー」もちろん良いのだけれど(つくづくそれぞれが成熟していたこの時期にビートルズがあったと思うと…)、ポール派の私はやはりポールの「シックス・オクロック」に1票。
ポールはピアノとシンセだけでなく、オケのアレンジでも参加、愛妻リンダもコーラスで加わっています。はっきり言って当時絶好調(アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」の頃)のポールとしては鼻歌レベルの曲でしょうが、ビートルズ時代も「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・マイ・フレンズ」といった曲をリンゴに提供しているように、ポールはリンゴの資質をよく理解している人でした。80年代にも「テイク・イット・アウェイ」といった傑作を提供(実際はあげずに自分でやっちゃった)しようとしたエピソードもあります。
とにかく可愛らしい歌、としかいいようのない曲で、歌詞もポールの特徴のひとつである他愛もない言葉遊びパターンですが、リンゴにはぴったりの曲です。

DEEP PURPLE / Never Before

Machine Head

Machine Head

ディープ・パープルに関しては、妙な距離感があります。
私の兄が高校生のころ、ビートルズの次にはまっていた洋楽がディープ・パープルでした(後追いです)。ポップの権化のビートルズから、長尺でハードロックでインプロヴィゼーションばりばりの彼らへとは、なかなか移れませんでした。兄弟(8歳差がある)はだいたい嗜好が似てくるものですが、彼らについてはハマれませんでした。
まあ当時私は幼稚園〜小学校低学年ですから、そういうのはまだ早かったのでしょう。なんせ当時一番好きだったビートルズの曲が童謡っぽい「フロム・ミー・トゥ・ユー」でしたし。
それでも、感受性の強い子供のころということを抜きにしても、あの長尺の曲が多い彼らの曲はそれなりに覚えてしまってましたから、彼ら(=リッチー・ブラックモア)の曲は様式美の中にもポップ寄りな要素は大きかったのだなと思います。
時代は下ります。高校生の頃になると、それなりに過激な音楽も聴くようになります。当時は80年代真っ盛りでしたが、私はリアルタイムの音楽以上にポスト・パンク〜ニュー・ウェーヴにはまります。するとディープ・パープルのような音楽は、様式美ゆえか私には非常にオールドウェイヴに感じました。ということで、彼らの音楽の素晴らしさ、完成度の高さは十分すぎるほど理解している(ニューウェーヴなんか聞いてるとなおのこと感じる)ものの、どうも私のアンテナからはちょっとずれてました。よりポップ度の高かったレインボウはしっかり聞いてましたが。
というわけで、とても良きパープル・リスナーとはいえない私ですが、ハードロック系の楽曲単位で一番知っているのは結局パープルだったりします。「紫の炎」「スペース・トラッキン」「ブラック・ナイト」「ハイウェイ・スター」、どれもとんでもない名曲だと思います。
さーて、そんな私が選んだのは名盤「マシン・ヘッド」の中の1曲、「ネヴァー・ビフォア」。この曲は当時シングルカットされたそうですね。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」「ハイウェイ・スター」など名曲目白押しのアルバムですが、やはり曲の長さがシングルとしてはネックだったんでしょう。というわけで、この曲は非常にコンパクトにまとまったポップな曲。リッチーが「こんなヒット狙いの曲ならいつでも書けるわい」とうぶやいているのが目に浮かぶような感じがします。

HAIRCUT 100 / Lemon Firebrigade

Pelican West (Reis)

Pelican West (Reis)

初めてヘアカット100を聴いたのはいつの頃だったろう…。私が洋楽に興味を持った頃には既に解散していて、ニック・ヘイワードが人気を集めていました。よって後に彼のいたバンドがヘアカット100だと知ったわけですが、このアルバム、当時めちゃくちゃ売れたんですね。イギリスでは年間チャートでトップ10入り、アメリカでも31位まで上がっています。シングルはデビュー作「好き好きシャーツ」(うひゃあ)から4作つづけてトップ10入り。ファンカラティーナ(考えてみれば初期のカルチャー・クラブスパンダー・バレエもそう言われていた)の代表選手として、またフィッシャーマンズ・セーターをズボンの中に入れるといういかにも80'sなファッション・センスも人気のバンドでした。
ただ、初めてこのアルバムを聴いたときは「なんじゃこれ?」といった感想を持ったのも事実。当時のCDの音がスカスカだったのもありますが、なんとまあ能天気で軽薄な音楽だなと思ったのです。オレンジ・ジュースを聴いたときと同じ感想でした。
ところが聴きこむたびに作りこみ方が半端じゃないなと思い始め、演奏の巧さに感じ入りました。当時のヒット曲群はいまだにそこまで好きなわけではないのですが、今回ご紹介する「レモン消防隊」(うひゃあ その2)はどこかセンチなメロディが気に入っています。
それにしても彼らの曲のタイトルはいかにもティーン・ポップ的というか。上に挙げた他にも「渚のラブ・プラス・ワン」「海洋少年」(なんか知らんが城みちるを思い出した)「ミルク・フィルム」「べイクド・ビーン」「スノウ・ガール」(変換したら「素脳」になって笑えた)「コーリング・キャプテン・オータム」「愛はトライアングル」などなど。歌詞カードがないので何について歌っているんだかわかりませんが。
このアルバム、ジャケも好きです。アイドルとしてお手本のようなジャケだと思います。

MICHAEL FORTUNATI / Into The Night

ギヴ・ミー・アップ-ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・マイケル・フォーチュナティ

ギヴ・ミー・アップ-ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・マイケル・フォーチュナティ

かつてBabeという女性二人組が「ギヴ・ミー・アップ」という曲を大ヒットさせたのを覚えてる方も多いかと思いますが、そのオリジナルがこのマイケル・フォーチュナティ。イタリア出身のユーロ・ディスコを代表するアーティストで、「ギヴ・ミー・アップ」は彼の初ヒットでもあります。Babeのカバーはオリジナルにかなり忠実なアレンジですが、哀愁味をどこか感じさせるオリジナルは、一過性のヒット曲とするには惜しいものでした。
今回紹介する「イントゥ・ザ・ナイト」は、その「ギヴ・ミー・アップ」に続くヒット曲。というより「ギヴ・ミー・アップ」の別ヴァージョンであるかのような見事な金太郎飴っぷりに脱帽。もうですね、サビのパターンが演歌ですよ。いろんな意味ですごい。
ちなみに曲はマイケル本人が作っているわけではなく、彼はむしろアレンジや楽器演奏での貢献が高いようです。
この後もディスコ・ヒットを飛ばし続け、90年代前半までちゃんと日本盤が出続けたところをみると、一般の洋楽ファンとは違う層が買っていたんでしょうね。

PAUL McCARTNEY & WINGS / Love In Song

Venus & Mars

Venus & Mars

ウイングスの全盛期は74年の「バンド・オン・ザ・ラン」、75年の「ヴィーナス・アンド・マース」の頃ですが、この頃はもうビートルズを引き合いに出されることも少なくなったくらい売れまくったようです。確かにこの頃のポールのクリエイティヴィティはビートルズの頃のそれとはまた違う次元なように感じます。
で、今回はその頃の隠れた名曲…というより駄曲を探すほうが大変な時期で、シングル以外でも「ブルーバード」「ピカソの遺言」「西暦1985年」「幸せのアンサー」「マグネットとチタン男」「コール・ミー・バック・アゲイン」「トリート・ハー・ジェントリー/ロンリー・オールド・ピープル」などもうどれもすばらしい曲だらけ。その中で今回はアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」の3曲目、タイトル曲と「ロック・ショウ」の強烈なオープニングのあとに登場する美しいバラード曲。
初めてこのアルバムを聞いたときから大好きな曲で、ポールのバラードの良いところが全部入っている大傑作。時と場合によっては泣いてしまうかも…というくらい胸をしめつけるようなメロディーが詰まっています。
残念ながらライヴでも演奏されなかった短いバラード。インパクトのある傑作期に埋もれがちなこれぞ名曲!