THE BEATLES / The Long And Winding Road

motogakusei2004-10-04


ジャケットからもお分かりになるように、これは未発表アルバム「ゲット・バック」の海賊盤です。よく知られているように元々は一発レコーディングによるアルバムを作るつもりで行った「ゲット・バック・セッション」が途中で空中分解、プロデュースをまずグリン・ジョンズに依頼して2枚分のリミックスをさせたあげくメンバーからボツにされ、かのフィル・スペクターによってアルバム「レット・イット・ビー」としてようやくまとめられたものです。ところがそこでの「ロング・アンド・ワインディング・ロード」は当初のライヴ・レコーディングのコンセプトとは外れて女声コーラスと大仰なオーケストラがかぶせられ、作者であるポールの意図をまったく無視したものでした。

Let It Be

Let It Be

というわけでフィル・スペクターがプロデュースする前の膨大なセッション・テープは70年代から数々の海賊盤を生み、ようやく「アンソロジー3」によってそのオリジナル・レコーディングの一部が日の目を見ることになりました。で、件の「ロング・アンド・ワインディング・ロード」のピアノ・ヴァージョンも無事収録されましたが、その美しさは「レット・イット・ビー」ヴァージョンの比ではありませんでした。それまではこの曲はあまりにスタンダードぽくてそこまで好きではなかったのですが、シンプルなオリジナルのピアノ・ヴァージョンには涙が出ました。これまでアレサ・フランクリンオリビア・ニュートン・ジョン、ビリー・オーシャン、ロバート・パーマーと多くのカバーを生み、ポール本人も「ウイングスUSAライヴ」「ヤァ!ブロードストリート」「トリッピング・ザ・ライヴ・ファンタスティック」「フラワーズ・イン・ザ・ダート」におけるセッションと4度セルフカバーをしていますが、このオリジナルの繊細な美しさ、ゴスペルっぽい崇高さにはかなわないと思います。甘口のバラードではない芯の強さみたいなものが感じられるところに逆説的ながらビートルズの凄さが改めてわかります。
ANTHOLOGY III

ANTHOLOGY III

「トゥ・オブ・アス」「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」など、大方の曲ではフィル・スペクターの手腕がいかんなく発揮されていますが、この曲に限っては完全にフィルの負け。というより、この曲のもつスケール感、圧倒的な説得力を感じてしまったがゆえにフィルは自分の手を入れたくてたまらなかったんではないかな、と思います。