NICK DECARO / Wailing Wall

イタリアン・グラフィティ

イタリアン・グラフィティ

AORの原点とされ、名盤の名を欲しいままにするニック・デカロの「イタリアン・グラフィティ」はカーペンターズのような大人のポップスにジャズやソウルのフレーバーを加えることがそのコンセプトだったそう。このアルバムはオール・カバーで占められており、スティーヴィー・ワンダースティーヴン・ビショップランディ・ニューマンジョニ・ミッチェルらの作品を取り上げてますが、その選曲のセンスもアレンジも抜群。さすがは後に引っ張りだこのアレンジャーとして名を馳せるだけのものです。

で、このアルバムにはトッド・ラングレンの作品も取り上げていますが、それがこの「ウェイリング・ウォール」。トッド作品のカバーは数あれど、74年という時期にまったく売れなかったトッドのセカンドアルバム(「首吊り」ジャケで有名な幻のアルバムとして中古盤市場では超高値)からこの曲を発掘したのだから恐れ入る。トッドの作品がゴスペルっぽく仕上げていたのに比べると、ニックのヴァージョンはよりスタンダードっぽく、だけどシンプルに仕上げています。結果として「ウェイリング・ウォール」はトッド初期の大傑作として、数多くのアーティストにカバーされるようになりますが、その先鞭をつけたのがニックだったわけです。

Runt :the Ballad of Todd

Runt :the Ballad of Todd

AORなんて…という人ほど、まずは「イタリアン・グラフィティ」を聴きましょう。「歴史的名盤」とはこのアルバムのためにある言葉。冒頭のビショップ作「ジャマイカの月の下で」を聴くだけで凡百のアルバムとは違う深い滋味を感じることでしょう。つくづく若くして亡くなったことが惜しまれる。