THE HOUSEMARTINS / Bow Down

The People Who Grinned Themselves To Death

The People Who Grinned Themselves To Death

あまり知名度はないかもしれませんが、80年代後半に突如登場したハウスマーティンズは、MTVロック全盛の定型サウンドとは異なるギター主軸の珍しいタイプのバンドでした。彼らが注目を浴びたのは86年の「ハッピー・アワー」の大ヒット(3位)からで、とことんポップながらどこかパンクっぽさと青さが感じられる印象的な曲でした。

その後も彼らは「シンク・フォー・ア・ミニット」、アイズレー/ジャスパー/ジャスパーのメロウ・ソウルをなんと見事なアカペラでカバーした「キャラヴァン・オブ・ラヴ」を大ヒットさせ、デビュー・アルバム「ロンドン0ハル4」(タイトルはサッカーのスコアになぞらえて、彼らの出身地ハルを勝たせた内容「ロンドン対ハル、0対4」)もロングセラーを記録した。

そして注目のセカンド・アルバムは若干パンクっぽさが抜け、より洗練されたサウンドを聞かせるようになります。本作「バウ・ダウン」はその中でもアコギのカッティングをベースに、トランペットと子供たちのコーラスをフューチャーした彼らとしては異色作。しかしその美しいメロディーは実に印象的で、夕焼けの情景が浮かびそうな曲です。しかしあっさりと彼らはこのアルバムで解散してしまいます。

彼らのもう一つの特色はアルバム・タイトルに象徴されるように(セカンドは「死ぬまで自分自身をあざ笑う人々」の意)、皮肉と怒りをこめた歌詞にあって、それは彼らが解散後に結成したビューティフル・サウスにも受け継がれていきます。この「バウ・ダウン」も美しい曲調とは裏腹に、実は最近日本でも問題化している「児童虐待」がテーマになっています。同様に虐待をテーマにしたスザンヌ・ヴェガの「ルカ」といい、この曲といい、溢れるような痛みや思いを美しいメロディーの中に押しこめるところに洋楽の奥深さのようなものを感じさせます。

とにかく内容の割に知名度の低い彼らのアルバム、スミスが好きな人ならきっとはまれる傑作です。